妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「ん~? 右丸?」

 呉羽は首を傾げる。

「お、お姉さん~。右丸だよぅ。一緒に鬼退治とかした仲じゃない~」

 烏丸が、ばさばさと羽を動かして、呉羽に言う。
 横でそはや丸が、くくっと喉の奥で笑った。

「ああ・・・・・・。いたね、そんな奴」

 あまりに気のない返事に、烏丸は、がく、と項垂れる。
 左大臣家の姫君、多子と行った鬼退治の折、呉羽と出会った右丸は、彼女に惚れたのだ。

 だがあくまで右丸は、呉羽を崇高な巫女姫と思っている。
 着物が脱げても気にせず大太刀を振るったり、そはや丸の前で、素っ裸で水浴びをしたりする女子とは、露ほども思っていないのだ。

 烏丸と身体を共有していたときは、事が起こったときには、もっぱら烏丸が表に出ていた。
 妖(あやかし)である烏丸は、右丸が表に出ていても身体の中から状況を把握することができたが、ただのヒトである右丸は、烏丸に身体を明け渡すと、意識は身体の奥底で眠りについてしまう。
 だからその間、右丸の身体は呉羽の前にあっても、それは烏丸であって、右丸自身には何が起こってもわからないのだ。

 故に、右丸は実際に呉羽が戦っているところは、見たことがないのだ。
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