妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「とよさん」

 依頼主から教えて貰った、娘の名前を呼んでみる。
 が、光る双眸に動きはない。

「お姉さん、見えるの?」

 肩に乗っていた烏丸が、ぼそ、と囁く。
 それで初めて、呉羽は舌打ちした。
 灯りの用意を忘れていたのだ。
 こんなことは初めてだ。

---どうも、ぼんやりしている。私ともあろう者が・・・・・・---

 妖の活動時間である夕刻になってからやって来たのだ。
 すでに外も、夕闇が迫っているし、ただでさえここは、木々に囲まれた建物だ。
 戸を閉めてしまえば、夜中と変わりない。

---勘しかないか・・・・・・---

 今更灯りを用意している暇はない。
 呉羽は細く息を吐くと、目の前の双眸を睨み、意識を集中した。

 元々『気』を見るのは苦手だ。
 神経を集中させ、且つそはや丸を扱わねばならない。
 いつも以上に力を使う。

「お姉さん、おいら、助太刀するよ」

 烏丸が言った途端、金色の双眸は地を蹴った。
 一瞬で間近に迫る。
 慌てて避けた呉羽の肩を蹴って、烏丸が高く飛び上がった。
 わざと『ぎゃ』と鳴いて、猫又の注意を引く。

「烏丸! 危ないぞ!」

 思わず叫んだ呉羽だが、烏丸は屋根の近くの梁に止まって、猫又から逃れた。
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