妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 そはや丸は、腕の中の呉羽に視線を落とした。
 ちょっと躊躇った後、ぺしぺしと軽く頬を叩く。

 烏丸は、そんなそはや丸を、じっと見た。
 依頼主の娘は容赦なく足蹴にするのに、呉羽には優しい。
 単に呉羽を抱いているから、娘に手は使えない、という理由ではないはずだ。

「うう・・・・・・」

 何度か頬を叩かれ、呉羽が小さく呻いた。
 すかさずそはや丸が、呉羽の身体を揺する。

「おい、ちょいと辛ぇだろうが、ここを出るまで気をしっかり持ってくれ。とりあえずお前が依頼主に説明しねぇと、時間食うし、厄介だ」

 呉羽は力なくそはや丸に抱かれたまま、じっと彼を見た。
 ぼんやりした目に、いつもの力はない。
 そはや丸は、ずいっと顔を近づけて、さらに言った。

「報酬を貰い損ねるわけには、いかんだろ」

 途端に呉羽の目が、かっと開く。

「そうだ。とよさんは・・・・・・無事か。よし、今回は相当きつかった。それなりに財もあるようだし、報酬をつり上げてやる」

 ざっと辺りを見渡し、呉羽はそはや丸の肩に手をかけて、よろよろと立ち上がった。
 そはや丸は、またちょっと躊躇い、肩に置かれた呉羽の手に己の手を重ねると、わざとぶっきらぼうに言った。

「・・・・・・じゃあ俺は刀に戻る。刀であっても、杖にはなるだろ」

 そして、呉羽が何か言う前に、彼女の手の中で刀に戻る。
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