妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「貴族でもなさそうなのに、凄いねぇ」

 呉羽の肩から袋を覗き込み、烏丸が感心する。
 受領というのは、身分は低いが下手な貴族よりも財があるのだ。
 下級ではあるが、一応貴族でもある。

「報酬としては、十分だよ」

 ふぅ、と息をつき、袋を締めると、呉羽はまた、そはや丸にもたれかかった。
 牛車の揺れが、眠気を誘う。
 すでに夜はとっぷりと暮れ、今は真夜中だ。
 このような時刻に蓮台野に行くのを躊躇っているのか、牛車の足はのろい。
 そはや丸が、苛々と前方を睨んだ。

「こんなのろさじゃ、俺が走ったほうが、よっぽど速いぜ。何を怯えてやがるんだ」

 そはや丸も烏丸も、自身が妖なので、夜に葬送の地に出向くことにも何ら躊躇いはない。
 呉羽にしても、自分の家に帰るだけなので何ともない。

 が、一般的にはそのほうが異常なのだ。
 ただでさえ夜は、魑魅魍魎が跋扈する。
 足が鈍るのも当たり前なのだが。

「お姉さん~・・・・・・」

 烏丸が、呉羽の懐に潜り込んだ。
 ごそごそ、と着物の中で反転し、ぴょこんと合わせから顔を出す。
 そのまま、ぺたりと呉羽に引っ付いた。

「・・・・・・血が付くぞ」

 呉羽が薄目を開けて言うが、烏丸はそのまま動かない。

「お姉さん、寒そうだもの。引っ付いてたほうが、ちょっとは暖かいでしょ」
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