妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 が、とりあえず烏丸は、畳んである衾を引っ張って、一生懸命床を延べた。
 その間に、そはや丸は火鉢に火種を放り込み、その傍で呉羽の身体を拭き始めた。

 身体の前は、肩から流れた血だけなので、そう手間もかからない。
 手早く前を拭いてしまうと、そはや丸は、呉羽を、そろ、とうつ伏せに寝かせた。
 背中を拭きつつ、傷の具合を確かめる。

「肩の傷のほうが酷いな。悪くしたら、腕がもがれてたぜ」

「・・・・・・でも、右腕じゃなくて良かった」

 傷の手当てをするそはや丸の耳に、呉羽の小さな呟きが聞こえた。

「まぁな。利き腕じゃないから、まだマシだろうが」

 ぶっきらぼうに答えるそはや丸に、呉羽は目を閉じる。
 寒くなってきた。
 呉羽の身体が震えているのに気づいたそはや丸が、衾を引き上げてくれた。
 もっともまだ背中の傷も手当てしないといけないので、腰から下までだが。
 烏丸が、そっと右腕に寄り添ってくれる。

「右腕をもがれたら、お前が離れてしまうだろ・・・・・・」

 呉羽がぼそ、と呟いた瞬間、肩の手当てをしていたそはや丸の手が、ぴくりと止まった。
 だがすぐに、元のように動き出す。
 しばらくしてから、頭にかかった靄が濃くなってきた呉羽の耳に、低い声が小さく届いた。

「そうなったら、すぐに他のところに取り憑くさ」

 本来は、はた迷惑で空恐ろしい内容だが、呉羽は酷く安心した。
 そして、そのまま眠りに落ちていった。
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