妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「馬鹿かお前は。そんな勢い良く起き上がるな。ほら」

 文句を言いながらも、そはや丸は手を伸ばして、後ろから呉羽を抱き寄せた。
 軽く呉羽を抱き上げ、胡座をかいた足の上に乗せると、片手で呉羽の身体を支えつつ、粥の入った器を手渡す。

 ほかほかと湯気を立てる器を両手で持ち、そはや丸の腕の中で、呉羽はちょっと笑った。
 粥を啜りながら、ちらりとそはや丸を見る。

「・・・・・・何だよ」

 じろ、と見下ろすそはや丸に、呉羽はまた、ふふ、と笑う。

「お前も炊事が出来るのだな、と思ってさ」

 正直、そはや丸にそのような家事が出来るとは思っていなかった。
 そはや丸と二人になってから、呉羽が寝込むようなことはなかったし、元々そはや丸は、食を必要としない。

 それより何より、この底意地が悪く自己中心的な男が、主とはいえ呉羽のために炊事など、してくれるとは露ほども思わなかったのだ。
 今も呉羽を支えてくれていることだって、普段のそはや丸からは考えられないことだ。

「それぐらいならな。大体、あのまま放っておいたら、お前が死んでしまうだろ」

 ぷい、と顔を逸らして、そはや丸が言う。
 おや、と呉羽は、少し意外に思った。

 呉羽が死んだって、そはや丸には関係ないはずだが。
 そもそも気に入らなければ、主を自ら喰い殺す妖刀である。
 主であろうとも、大切ではないはずだ。
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