妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「・・・・・・右丸がさぁ」

 不意に、呉羽が呟いた。

「私に、『お慕いしております』って言ったんだ」

 びく、とあからさまに、そはや丸の身体全体が強張った。
 しん、と沈黙が落ちる。

 呉羽が下を向いているのを幸い、そはや丸は顔をしかめて、ぎり、と奥歯を噛みしめた。
 力を入れないと、呉羽を支えている腕が震えてしまう。

 はっきりと、そはや丸は自分が動揺していることに気づいた。
 呉羽はヒトだ。
 いつかは己の元を去ってしまう。

 今までは単純に、呉羽が己の元を去るときは、呉羽が死ぬときだと思っていた。
 そはや丸と違い、ヒトの生は短い。
 当たり前のことだ。

 だがまさか、他の男に盗られるとは。

 そこまで考え、は、と我に返る。
 他の男に盗られるとは、どういうことだ。

 別に呉羽が普通の女子のように嫁いだって、それだけでそはや丸から離れるわけではない。
 そはや丸が呉羽から自力で離れない限り、そはや丸は呉羽から離れることはないのだ。
 嫁いだって、そはや丸の主であることは変わりない。

---だがもし、呉羽が右丸の気持ちを受け入れて、奴が通ってきたりしたら・・・・・・---

 考えただけで、訳のわからない怒りが湧き上がる。
 同じヒトと添うのが、呉羽のためだとはわかっている。
 頭の隅では、己が枷になっていることも。
 右腕全体に不気味な紋様の浮いた、妖刀憑きの女子など、誰が嫁に貰おうか。
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