妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 そはや丸は今まで、呉羽がヒトとして幸せになることよりも、己を優先してきたのだ。
 己が憑いている限り、呉羽はヒトに添うことが出来ない。
 他のヒトに盗られることはないのだ。

 そう思って、安心していた---。

「・・・・・・俺は・・・・・・」

 気づけば、ぎゅ、と呉羽を抱きしめていた。
 が、身体が震える。
 抱きしめている呉羽にも、震えは伝わっているだろう。
 この震えは、恐れか、怒りか。

「そはや丸はさぁ、女官殿のこと、どうするんだ?」

 そはや丸の震えに気づいているだろうに、呉羽は特にそのことに触れることなく、全然違うことを言った。
 己の思考に沈んでいたそはや丸は、何のことかわからず、呉羽を見下ろす。

 そはや丸に抱きしめられても、やはり抵抗することなく、呉羽はちらりと顔を上げた。
 その目に、どこか不安そうな色が浮かんでいる。

「そはや丸はさ、自分でも言うように、普通のヒトと変わらないじゃないか。ヒトのふりして、ヒトと添うことも、できるんじゃないのか?」

「何を・・・・・・言ってるんだ」

「・・・・・・そはや丸は、もしかして、女官殿のこと、ほんとに好きなの?」

 小さな声で、呉羽が言う。
 ただでさえ停止しそうだったそはや丸の思考は、この一言で、完全に停止した。
 目を見開いて、呉羽を凝視する。
 そんなそはや丸を、どう解釈したのか、呉羽は俯いて続けた。

「私に憑いてしまったから、女官殿の気持ちに応えられないのかなって・・・・・・」
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