妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「俺が離れたって、お前には右丸がいるだろう。あいつはずっと、お前を好いてた。同じヒトだから、同じ時を過ごせるぜ。何も死に急ぐこともあるまい」

 言いながら、そはや丸は自分の言葉に、ずきんと胸が痛んだ。
 妖である己と、ヒトである呉羽は、同じ時は過ごせない。

 そはや丸は、呉羽の背に回した腕に、力を入れた。
 今ここで、呉羽を斬ってしまおうか。
 そうすれば、もう誰にも呉羽を盗られないで済む。

 そはや丸の妖気が、ちり、と僅かに昂ぶった。

「・・・・・・右丸のことは・・・・・・よくわからない」

 ぽつりと呟いた呉羽に、そはや丸は、ぴくりと反応した。
 先のそはや丸の昂ぶりに気づかぬ風に、呉羽はそはや丸の胸元を掴んだまま、言葉を続ける。

「女官殿も、右丸も、まるで疑問も持たずに相手を好きだとか慕っているとか言うけど、それってどういうことだ。とよさんに嫌がらせをした女だって、とよさんの旦那を好いた故だろう。そういうの、全然わからない」

 呉羽も混乱しているようだ。
 いつもの冷静さはなく、ただもやもやした感情を、そはや丸にぶつける。

 そはや丸は、若干戸惑いながらも、ふと呉羽の背にある己の手の違和感に気づいた。
 呉羽の身体が熱い。

「おい呉羽。お前、熱があるじゃないか。だからそんな変なこと考えるんだ」

 呉羽を抱き上げ、床に寝かすが、呉羽は小さい子供のように、そはや丸にしがみついて離れない。

「変なことじゃない! 大事なことだ! お前が私から離れたいと思ってるなら、遠慮はいらん。私は別に、右丸と生きたいとは思ってない。多分それは、右丸はヒトだとか、そういうことは関係ない」
< 98 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop