How to KISS

 ああ、よかったわ。

今のうちにどこか行ってしまえばあしらう必要がなくなるわ。

なんて都合のいい男。


そう、クスクス笑みがこぼれるのを顔半分を覆うサングラスで隠しながら、適当な角を曲がっていく。


 ヘーゼルナッツカラーの髪と瞳は王子様みたいで好みだけれど、あんなコークみたいに大衆的な身のこなしは好きじゃないわ。

ああ、けど、でも…今夜の…


 クスッ…

今までを思い返すと可笑しくて笑いがこぼれてしまったわ。

なんだかんだ、ヘーゼルナッツカラーには私って目がないのね、とサングラスを外しながら無意味にご機嫌な笑が浮かぶ。

それにしても、今日はひどく頭にこびりついている。

きっと、あのイエロー野郎のせいでレッド野郎の彼を思い出してしまったせいね。


やっぱり、私も今度からレッドサンと呼ぼうかしら、と思いながらちょうど通りかかったタクシーを停めた。

もしもう一度、あの軟派なリップの男が私の魅惑的なリップを渇望することになったら、彼と私のそれを足して割るのもいいかもしれないわ。

その時はよろしくね、と通りの向こうでキョロキョロしている彼に心のなかで伝えておいた……
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