How to KISS
01
また会えるよな、気を付けて。
タクシーからからだ半分覗かせる私にそう言って、キスの素振りをあからさまにする目の前の男。
つい数時間前、バーでひとりで飲む姿(まる でフィッシュアンドチップスでポテトのみ食べられ残されたフィッシュのようだった)に私の唇が音をもらさずビンゴと告げた。
そんな私の愛する利口な唇は模範解答で男に近付くなり、それは巧みに働いた。
もちろん、男もマニュアル通りすぐに愛しさが芽生えたから、そこからも規定通りだ。
予想通り男の宿泊ホテルは一流だったし、共に したシャワールームでのウォーミングアップは たいそう私を高ぶらせた。
最新鋭のスプリングの大きなベッドの低反発マットは互いに求める揺さぶりを吸収しすぎず、かなり刺激的で何度仰け反ったかわからない。
先日の男(信じられないことにふわふわのマッ トにこだわり、わざわざ変えさせてた)の物足りなさにより高ぶりは絶頂だった。
あまりの高揚とよがりに立てたルージュの整えられた爪は男の背中に血を滲ませ、余韻に浸るシャワーで機嫌を悪くした。
が、それもすぐに、男はすっかり魅了させられた私の素敵な唇がその痕を捉えることでそれを 許した。
シャワーヘッドから溢れるお湯だって、私の唇がもたらす唾液だって、変わらないだろうに皮肉なものね。