How to KISS
運転手に多めのチップを渡し(もちろん、ハンサムプライス)、チップよりも君の連絡先が欲しいと言うのを上手くあしらい、見慣れたホテルに入り込む。
やっぱり、教えてしまえばよかったかも。
フロントでいちいち名乗ることをしなくてよくなったのは、家を探すのも手入れも面倒だからという理由でこっちにきてから(ここでこの季節を過ごすのは三度目だ)ずっとこのホテルで過ごしているから。
いつも通り、不在中の訪問者とメッセージの 記録を確認する。
メッセージとそれから何枚目になるかわからない カードキーを受け取る。
黙っていても、擦れてくるとフロントマンに渡される新しいカードキーは七枚目を数えたときからその数を認識することをやめた。
ひどくきれいに口角を上げて微笑むホテルマン に見覚えを感じ思わず見てしまうが、胸元のバ ッジ、カフスのボタン、それから私の記憶から 新入りと判断した。
今夜、バスタブに浮かべるルージュのバラの花 弁よりも多くの男を見てきたのだから、面影が重なることだってあっても可笑しくはない。
どこで見かけたどんな人だったかしら。