How to KISS

けれど、まだ酸素が吸い込めない。


仕上げに美容液をたっぷり含ませたコットンで唇を拭う。

身に纏っていたたくさんのルージュ。
一番毒々しいのは唇のそれ。

肺に流れ込む酸素は生きてる心地を助長させる。
けれどそれとともに体内の酸化も進む。


結局、苦しい。


ふと見た鏡に写る私。

今にも泣き出しそうで心細さの滲んでる表情が幼い頃の私を彷彿させる。

なんだか可笑しくて、可笑しくて、くすりと笑ってしまった。

ああ、そうだ、バラは今日はよそう。

あの頃の私は、そう、入浴剤ではなく実際に石鹸でバスタブいっぱいいっぱいに泡を作るのがお気に入りだった。

確か、この前の展示会でもらった素敵なバラの形の石鹸の飾り(もちろん飾らずベビーピンクの素敵な袋に入れたままだ)があった。

せっかくだし、それを使おう。
(昔、ママが愛用していたオーダーメイドのバラの香りが素敵な石鹸をこっそり使ってみた日はこっぴどく叱られたっけ)


なんだ、私は笑える。

頭の隅に浮かぶルージュのリボン。

それはそのときの私がもっていた唯一のルージュで、毎日のように髪を飾っていた。

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