ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
notice 02 想い
杏子と別れてマンションに戻った私は、クローゼットの上段から古い段ボールを引きずりおろした。
ガムテープは引っ越してきた時に外してある。
けど、中から出しても収納場所が限られているため、そのままにしていたものばかりだ。
就職してひとり暮らしをする際、実家に置いておくと捨てるよ、と母に言われ。
ある程度は処分した中で、最後までどうしても捨てられずにいた物を引っ越しの荷物に紛れさせた。
詰めていた物をゆっくりととり出していく。
出てくるのは、足しにと思って、就活の合間に資格取得に励んだものの、三日坊主に終わった、ビジネス関連の各種検定テキストが数冊。
それと、中学、高校、大学の卒業証書、いろいろな思い出がつづられているアルバム。
「……あった」
探していたものは、一番底に大事そうにしまわれていた。
ベージュのケースの表面には、高校名が記載されてある。
ケースを抜くと、真紅のベロアで装丁された卒業アルバムが表れた。
踏み台の替わりにしていたパソコンラックの椅子から下り、カーペットに横座りする。
開けるのは、何年ぶりだろう。
もうずっと見ることさえ、なかった。
懐かしい。
持つ手が小刻みに震えているのは、緊張しているせいだ。
表紙をめくって、校長のメッセージや、教員一覧のページは素通りする。
――2組。
彼の、3年時のクラスだ。
その数字に自嘲めいた笑みがこぼれそうになる。
結局、彼とは3年間一度も同じクラスになったことがない。
なのに、今でも忘れられずにいたなんて。
私自身が何組だったのか、もう覚えていないのに。
1組をめくって、2組のページを開ける。
30人ほどの生徒の個人写真がおさめられている。
その中から難なく探しだせてしまう彼の姿は、上から3段目の右隅。
青をバックに、唇を結んで生真面目そうな表情でそこに写っている。
外村宏之(とのむらひろゆき)。
それがフルネームだ。
笑顔なら、今でも脳裏にはっきりと思い浮かべることができる。
初めて出会った時も、彼は笑顔を浮かべていたから。
『無理やり押しつけられて、まいったよ』
並びのいい白い歯を見せながら、くしゃりと破顔した。