ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
待ってと言われても。
私の歩幅よりはるかに大きい歩幅で余裕で追いついた彼は、当たり前のように隣に並ぶ。
これ以上はついてきてほしくないという思いと、帰る方向が正門を出て逆ならいいという願いから、私が住んでいる町名を口早に告げると。
奇遇だね、と彼が微笑む。
彼の住んでいるところは、私の通学経路の延長線上だったのだ。
途中で左折するまで同じ方向だ。
頭を抱えたくなる思いにとらわれる。
「きみのような子が、体育祭の実行員なんてね」
そりゃそうだ。
体育は苦手で、自慢じゃないけど、成績も万年2か3。
もちろん、10段階評価で、だ。
好き好んでやっているわけが、ないじゃないか。
「うちのクラス、立候補者が誰も現れなくて、ジャンケンで決めたんです」
「……ジャンケン」
復唱するやいなや、彼は言葉に詰まったようで。
それ以上は何も言い返してこない。
そんなに驚愕するようなことだろうか。
「そっちはどうして実行委員になったんですか」
「俺? 俺ね、サッカー部入ってて、クラス内では自分でいうのもなんだけど目立つタイプみたいで。おまえ、やれよーって」
「そうなんですか?」
「そ。無理やり押しつけられて、まいったよ」
後頭部に手をやって、無邪気に笑う。
無理やり、というわりには、彼自身はさほど苦に感じている様子は見られない。
むしろ、嬉々として自ら率先して盛りあげていきそうだ。
初対面に近い私に気さくに話しかけてくるくらいだから、クラス内で目立つタイプというのは、相違ないだろう。
ムードメーカー的な存在だというのがうかがえる。
しゃべっているのは彼のほうが圧倒的に多く。
私はなかば聞き役に徹しているにすぎなかったけど。
この時間、なんかいい。
楽しくて、あっという間に過ぎ去ってしまうようで。
路地に入る十字路で別れるのが、ほんの少し、惜しいと思えたくらいだった。