ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

待ってと言われても。

私の歩幅よりはるかに大きい歩幅で余裕で追いついた彼は、当たり前のように隣に並ぶ。


これ以上はついてきてほしくないという思いと、帰る方向が正門を出て逆ならいいという願いから、私が住んでいる町名を口早に告げると。

奇遇だね、と彼が微笑む。

彼の住んでいるところは、私の通学経路の延長線上だったのだ。

途中で左折するまで同じ方向だ。

頭を抱えたくなる思いにとらわれる。



「きみのような子が、体育祭の実行員なんてね」



そりゃそうだ。

体育は苦手で、自慢じゃないけど、成績も万年2か3。

もちろん、10段階評価で、だ。


好き好んでやっているわけが、ないじゃないか。



「うちのクラス、立候補者が誰も現れなくて、ジャンケンで決めたんです」

「……ジャンケン」



復唱するやいなや、彼は言葉に詰まったようで。

それ以上は何も言い返してこない。

そんなに驚愕するようなことだろうか。



「そっちはどうして実行委員になったんですか」

「俺? 俺ね、サッカー部入ってて、クラス内では自分でいうのもなんだけど目立つタイプみたいで。おまえ、やれよーって」

「そうなんですか?」

「そ。無理やり押しつけられて、まいったよ」



後頭部に手をやって、無邪気に笑う。

無理やり、というわりには、彼自身はさほど苦に感じている様子は見られない。

むしろ、嬉々として自ら率先して盛りあげていきそうだ。


初対面に近い私に気さくに話しかけてくるくらいだから、クラス内で目立つタイプというのは、相違ないだろう。

ムードメーカー的な存在だというのがうかがえる。



しゃべっているのは彼のほうが圧倒的に多く。

私はなかば聞き役に徹しているにすぎなかったけど。


この時間、なんかいい。

楽しくて、あっという間に過ぎ去ってしまうようで。



路地に入る十字路で別れるのが、ほんの少し、惜しいと思えたくらいだった。







< 12 / 103 >

この作品をシェア

pagetop