ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
コーヒーを飲み干すと、陽平はマンションをあとにした。
私の顔を見たかったから寄ったというあの言葉は、本心からだったんだろう。
空になったマグカップが、ローテーブルに残されている。
コーヒー、か。
そこについさっきまでいたはずの陽平ではなく宏之の顔が重なるのは、それもこれも同窓会のせい。
同窓会が開かれるという案内を受けとらなければ、宏之のことを思いだすことはなかったかもしれないのに。
宏之と急接近したきっかけが、コーヒーだった。
自らの意思と関係なく、否応なく記憶が過去へと引き戻されていく。
体育祭はなんのトラブルも起きずに閉幕を迎えた。
これで、外村くんにかかわることは、なくなる。
もともとクラスが違ったから、接点そのものもなかった。
だけど、実行委員として共有してきた時間が与えたものは、彼といることの楽しさ。
居心地だって、いい。
話術が巧みで、知らない話題でもどんどん惹きつけられていく。
これで終わりなんて、したくないのに。
けど、感傷に浸る暇はまだ許されず。
実行委員にはあと片づけという名の雑用が待っていた。
使用した備品の回収に、テントの撤収。
それぞれに役割分担され、私はゴミ袋の回収に奔走することになった。
体育祭が開催されたのは、10月上旬。
陽は落ちかけているとはいえ、それでもまだ十分な陽射しが注いでいたから、あと片づけをすべて終えた頃には汗だくで、喉が渇いていた。
たぶん、それは私だけでなく、実行委員メンバー誰もがそうだったのかもしれない。
解散、の声がようやくかかると、教室に戻る前に食堂に立ち寄ることにした。
校内で自販機が設置されているのは、唯一そこだけだったからだ。
校舎と渡り廊下を挟んで建つ食堂内の隅のテーブルでは、数人の生徒が学校指定の紺のジャージ姿のまま、時折笑い声をあげながら雑談している。
気にとめずに奥の壁際に据えられた自販機へ向かう。
手に提げていた小ぶりのエコバッグから長財布をとりだして、硬貨を投入する。
「……あ」
小さく声をあげた。
ここの自販機では一般よりも10円安く販売されているものの。
手持ちの小銭が足りなかったのだ。
お札は財布の中にあるけど、私が投入した自販機はお札に対応していない。
やってしまった。
頭を抱えたくなる。