ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
ふと、左隣の自販機を見れば、そっちはお札対応になっている。
だけど、そっちで売られているのは栄養補助食品やお菓子類で、喉が渇いているというのに、そういった類いを買う気にはなれない。
右隣は紙パックに入ったドリンク類を扱う自販機で、お札には対応している。
缶入りやペットボトルを販売しているのは、この自販機だけだった。
今はとにもかくにもからからに喉が渇いている。
干上がった喉を潤すには、紙パックのドリンクをストローでみみっちく飲みたいとは思えない。
一気にごくごくと流しこみたいのに。
どうしよう。
「困ってるみたいだけど、どうしたの」
背後からテノールの声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。
振り向くと、そこにいたのは外村くんだった。
着替える前にここに寄ったんだろう、私と同じジャージ姿のままだ。
実行委員でたまたま同じになっただけの人。
委員会が開かれるごとに会話を交わすようになったし、帰る時は方向が同じだから自然と並んで帰ったことも多かった。
最初の頃に比べたら、かなり打ち解けているといっても、過言ではない。
私の中で彼の存在というのものは、大きくなっている。
だからといって、まさか、お金を貸してください、など図々しいお願いなどできるはずがない。
「なんでもないです。お先、どうぞ」
返却レバーに手をかける。
隣の自販機でお菓子を買ってお札を小銭に崩してから、缶のドリンクを買えばいい。
お菓子を買って困ることはない。
休み時間に杏子と食べることもあるくらいだから。
「もしかして、足りなくて困ってた?」
「そんなこと、ないです」
「いくら? ジュース代くらいなら貸すし」
「いえ、いいです」
「いくらだよ?」
せっかくの申し出だけど、貸してもらう義理があるとは思えず断ろうとするものの、しつこく食いさがってくる。
人がいいんだか、おせっかいなんだか。