ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
残業を終えて会社を出ると、ビジネス街はすでに夕闇に染めあげられている。
大通りまで進んでいくと、仕事帰りらしいビジネスマンが駅を目指して行き交い、その列に加わる。
ふと思い立って、歩道脇の赤い郵便ポストの前で足を止めた。
肩にかけているトートバッグの内ポケットから返信ハガキをとりだす。
そこには、ゆうべ出席に丸をつけた私の筆跡が、くっきりと記されてある。
投入口にゆっくりと投函する。
何かを飲みこむように吸いこまれていくハガキは、手元からすぐにその姿を消してしまう。
これでいいと思おう。
最終的に行くと決めたのは、私自身。
くどくどと迷い続けても、どうにかなるものでもない。
あとは同窓会当日を待つだけだ。
通いなれた駅に着いて、ちょうどホームにすべりこんできた地下鉄に乗りこむ。
車内は見るからに仕事帰りと思われる人たちで混みあう。
当然のことながら、座席はあいていない。
つり革ですら、そのほとんどが利用中だ。
吐息をつきながら、ドア近くの壁に背をもたれさせる。
まぶたを閉じると思い浮かぶのは、宏之の顔。
陽平には申し訳ないと思うのに、自分の意思では止められない。
宏之とのデートスポットがもっぱら地元の大型ショッピングモールだった。
その中で、電車で出かけた数少ない想い出が脳裏を駆けめぐる。
あの日、行きしはひとりで電車に揺られていた。
ひとりだったのに、妙に鼓動がドキドキと脈打ってうるさかった。
緊張していたのは、私のほうだったのかもしれない。
デートではなく、声援を送りに行くためだったからだ。
前日のことだった。
6限の授業直後、放課後にサッカー部の部室に来てほしい、と宏之からメールを受信していた。
明日の試合に備えて、練習は休みだと聞いていたのに。
どうして部室で落ちあうんだろう、といぶかしむ気持ちを抱きつつ。
久々にまだ日の早い時間帯にふたりで帰れるのが嬉しくて。
どこか寄り道しようと考えていた。
とはいっても、試合の前日だから、リラックスしてもらうのが大事。
落ち着けるような場所はどこだろう。