ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
いろいろと考え巡らせていると、グラウンドと体育館の狭間に目立たぬようひっそりと建つ、各運動部の部室があるクラブ棟に着いた。
運動部に所属する部員以外はおおよそ縁の遠い建物で。
初めて立ち入るせいか、鼓動が心なしか速まる。
汗と土埃の匂いが混じったような廊下を進んでいく。
テニス部、バレー部、バスケット部、弓道部、卓球部、陸上部、水泳部などのプレートがかかげられた部室を次々に通りすぎる。
つきあたりのシャワー室の手前に、サッカー部と表記されたプレートを見つけたと同時に、そのドアが手前に開かれた。
先に到着しているであろう宏之が出てきたのかと思ったけど、シルエットが異なる。
スクールバッグを肩に携えたがっしりとした体格は、宏之よりひと回りほど大きい。
薄暗がりのせいで、顔の判別がつかずに戸惑っていると。
「よう、ひろの嫁じゃねえか」
影が親しげにからかってきた。
「……堀くん」
堀くんは宏之と同じサッカー部員で、同じようにレギュラーで。
宏之のポジションはフォワードだけど、堀くんはディフェンダーだ。
攻撃なら、宏之。
守備なら、堀くん。
最強のツートップ。
そう絶賛されることもあるくらいの、互いの息がぴったり合い、信頼しあったふたりだ。
堀くんは私と宏之がつきあっているのを、当然のように知っていて。
宏之と仲がいいせいもあるのか、部員内で一番、私たちのことをからかってくるひとりだ。
ノリがよくて、お調子者なだけだとわかっているけど。
「嫁じゃないし、やめてよ」
「なんだよ、冗談の通じねえやつだな」
「不快になるだけの冗談なんて、笑えない」
「つまんねえな」
チッ、と聞こえよがしに舌打ちまでしてくるから、タチが悪いというか、なんというか。
彼にはどうにも好感を抱けない。