ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
だけど、明日の試合を控えて緊張しているんじゃないだろうか。
少しでも緊張を緩和しようと、私にこんな話をしているんだとしたら。
私にできることは。
「ハットトリックって」
頑張って、と激励しようと口を開きかけた矢先。
一瞬早く宏之が言を紡ぐ。
半開きになった唇を再び結ぶ。
「ハットトリックって、聞いたことある?」
「え、わかんない」
宏之がサッカー部に所属しているとはいえ、私自身、サッカーはあまり詳しくない。
プレー方法とかの根本的なことは理解している。
でも、ロスタイムってなんだ、と訊ねるくらいの浅い知識でしかない。
野球なら、父がシーズン中にプロ野球中継をよく観戦している。
その影響もあってか、そっちのほうがルールとかに詳しいほどだ。
「ハットトリックって、もとはクリケットっていうスポーツから来てる言葉なんだ」
「へえ、そう」
「ひとつの回のうちに3球で3人の打者をアウトにすることを、ハットトリックっていうんだけど、これを達成した投手に帽子が贈られたことによるものなんだ」
「それ、サッカーと関係あるの?」
「あるよ。サッカーでは、ひとりの選手が1試合に3点以上ゴールを決めることだよ」
「難しそうだね」
「そうだね、プロでもなかなかできるもんじゃない」
なかなかのハードルの高さがうかがえる。
でも、なんでサッカーの知識がほぼ皆無の私に、ハットトリックなんていう用語をわざわざ教えたんだろう。
そう考えかけた時、同時にひとつの結論に至りそうになる。
まさか、宏之は明日の試合で……。
そんな。
プロでさえ達成するのはひどく困難なはずなのに。
どうして。