ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
おもむろに宏之の横顔に目を向ければ、同じタイミングで宏之も私のほうへ向いて。
視線が絡まる。
とても柔和な宏之の瞳は、いつもとなんら変わりはない。
私を見つめる瞳に熱が宿るのを、とらえた。
その瞬間、なぜだろう、妙に胸が高鳴っていく。
「もし明日の試合でハットトリックを決められたら」
「決められたら?」
訊き返す声が、わずかに震える。
この続きは、何を告げられるんだろう。
先がなんとなく想像がつくような気がしないでもない。
加速をつけた心音が、ますます速くなる。
刻む鼓動の音が、鼓膜の奥で聞こえる。
「キス、しよっか?」
朗々とした声が、耳朶を貫いた。
つきあってひと月が過ぎようとしている。
私にとって、宏之は初めての彼氏だ。
手が触れあっただけで最初のうちは気恥ずかしくて、腕を組んだり、手をつないだりできるようになったのは、ごく最近。
そろそろ次のステップへ、と考えてはいたけど、次のステップで何をするのかなんとなくの予想がついて。
足踏みする気持ちがどこかに潜んでいた。
怖いんじゃない。
うまく応えられるだろうか。
案じる気持ちからだ。
キスの経験なんて、ないのに。
だけども、宏之と1日でも早くキスを交わしたという気持ちは、ないわけもなく。
それが明日、訪れるかもしれないなんて。
宏之の手がやおら伸びてきて、ポンポン、と戸惑っている私の頭を軽く叩く。
「そんなびっくりしないでよ」
「だって……」
「俺がハットトリック決められなかったら、お預けなんだから」
「でも……」
「ま、俺は本気で唇狙いに行くけどね」
口調は冗談めかしているのに、いつになく真顔だ。
「覚悟、しとく」
そう返すのが、精いっぱいだった。