ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
ピーッと。
ホイッスルが甲高く鳴り響く。
試合終了。
相手校のイレブンたちに、一様に勝利の笑顔が弾ける。
それとは対照的に、敗北を実感したのか、ストライプのユニフォームの選手たちには落胆がいっせいに襲う。
がっくりと肩を落とす選手。
その場に力なく座りこむ選手。
泣くまいと必死に歯を食いしばる選手。
じくじたる思いで、誰もが無念さを痛感しているんだろう。
ここまで来たのに。
あと1歩だったのに。
届かなかった。
ユニフォームを着ていなくても。
実際にプレーをしていなくても。
自分の高校の敗北を、悔しがらないわけがない。
妙に泣きたくなって、こらえる。
フィールドの中央。
仲間たちに肩を叩かれながらもなお立ちすくむ宏之は、放心したようにかすかに陽が翳り始めた空を仰いでいた。
なんて声をかけていいのか、わからなかった。
頑張ったね、と言いかけてはためらい。
かっこよかったよ、と言いかけては、なんだか違うと思い直し。
また来年もあるよ、なんて軽率な気がして飲みこむ。
妥当な言葉を模索するも、見つけられないまま。
宏之の隣に並ぶ。
競技場の最寄り駅から電車に乗ったあとも、会話らしい会話はひと言も交わさない。
駅前の商店などが建ちならぶにぎわう通りを過ぎて、自宅へと続く通学路に入っても、なぜか宏之はその角を曲がることはなかった。
この道をまっすぐに行くと、学校に向かうだけなのに。
「……ひろ」
声をかけようとして、思いとどまる。
このまま宏之のそばにいよう。
今は宏之のそばにいよう。
無言のまま歩みを進めていると、やがて右手に見慣れたブロック塀が続いて、その先に校舎をとらえた。
土曜日でほかの部活動が行われているせいなのか、開かれたままの正門を抜け。
前庭を通りこして、校舎の脇を過ぎ。
クラブ棟内のサッカー部の部室までやって来て、ようやく足を止めた。