ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
昨日の光景が、にわかに脳裏によみがえる。
もう少し遅い時間帯だったけど、ふたりきりという状況はあの時と変わりはなく。
勝手に心臓の音が加速を始める。
無言のまま、ドアを押し開けて中に入っていく宏之のあとを追う。
歩みは昨日と同じように、窓のそばで止まる。
窓の向こうのグラウンドでは、テニス部員たちが土曜日だというのに、ネットを挟んで打ちあっている。
どのクラブも、結果へつなげるために、練習に余念がないんだろう。
地道な日々の積み重ねが、勝利につながると信じるしかない。
はつらつとかけ声も上がる中、それとは対照的に、ここは妙に静かだ。
唇を結んだまま、それでもどこか楽しげに眺めていたのに、窓枠に手をついたかと思うと。
宏之はうなだれるように顔をコツンと窓へぶつけた。
その目はぎゅっと固く閉じられている。
泣きだすのかと思ったけど、目からこぼれる水滴が頬を伝う様子はない。
ほっと安堵して、宏之の横顔を見つめる。
こんな時、なんて言えばいいんだろう。
そばにいるしかできないなんて、もどかしい。
彼女なのに何もしてあげられないなんて。
こんなんじゃあ、そばにいても意味がない。
しばらくして。
ドン、と不穏な音が響く。
ぎょっとして顔を向けると、宏之のこぶしが、窓にあたっていた。
ガラス窓を思いっきり叩いたんだろう。
手の甲に浮かび上がった血管は青白く、きつく握りしめられているのがうかがえる。
「……悔しいよ」
抑えた声だった。
だけど、喉の奥から必死に振り絞ったようなそれは、ひどくつらそうで。
不本意な結果にあきらめきれない思いが透けて見えて、いたたまれない気持ちに襲われる。
私に、何ができる?
ねえ、何をすればいい?
ねえ?
訊こうとしてはできなくて、窓枠に押しつけられたこぶしに両手を重ねる。
当事者でもない私が、つらい気持ちを100%理解するのは難しいだろうけど。
それでも、同じ気持ちには変わらないことが伝わってほしい。
宏之の手を両手で包みこむように、握りしめ続けた。