ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「無様だったよな」
陽がとっくに落ち、部室内が暗くなり始めて。
そろそろ電気をつけに行ったほうがいいかも、と思いかけた時だった。
どこか冗談でも言うような宏之の声が、聞こえた。
から元気なんだろうということは、容易に想像がつく。
「でも、人一倍、頑張ってた」
「そりゃ、女神様の唇がかかってましたから」
「勝利の女神には、なれなかったね」
そんな悲しいこと言うな、と私の肩に手を回すと、胸元へぐいっと引き寄せられる。
力強く抱きしめられる。
本当は泣きたいんだろうか。
号泣すれば、無念さも水分と一緒に流れていくだろうか。
「泣いても、いいよ」
腕の中でぽつりとつぶやく。
すぐに、バカ、と笑い声とともに降ってくる。
「泣かないよ。今でさえ十分みっともないのに、これ以上醜態さらすのは、まずいだろ」
「私の前でなら、いいよ。泣いたところ見たからって、べつに引かないから」
「かっこくらい、つけさせろ」
ふふ、と微笑むと、笑うところじゃないって、とあきれ声が唸る。
「ねえ?」
呼びかけに宏之の腕が少しゆるんだのを感じて、顔を上げると。
視線が重なる。
あまりにも近すぎる距離のせいで、宏之の瞳に私が映っているのをはっきりととらえる。
そのまま目をそらすことなく、おもむろに口を開く。
「キス、していい?」
そう告げた時。
グラウンドで高らかなホイッスルの音色が、鳴り響いた。
一様にジャージ姿のテニス部員たちが、打ちっぱなしをしていたコート内から出ると、コーチのもとへ駆け寄っていくのが見える。
驚愕したように宏之の顔が窓の外へわずかに向けられたものの、また向き直って。
「その、今言ったことって……」
「マジだよ」
困惑しながら問いかける宏之を、強い口調で遮る。
昨日、宏之に言われてからずっと考えていた。
考えすぎて、夜、あまり眠れなくて。
朝起きたら、泣いてもいないのに目が真っ赤に充血して。
頭もぼーっとしていた。
「決めてたから」
今日、試合に勝とうが負けようが、宏之とキスをする、って。
次回にお預けなんて、そんなことは絶対にさせない、って。