ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

サボりがちだった、お風呂上がりのボディークリームをつけることに始まり。

同窓会に来ていく服を新調しようと考え至った。


仕事着のワードローブは無難にモノトーンに走りがちだったから、この際、ふだんは身につけない色に挑戦しようと決意した。

そのことを杏子にメールを送ったら、なぜか一緒に行くと言いだした。

絶対についていくから、と私が反対しようとするのを押しきられ、日曜日に杏子と見て回る。


考えてみれば、杏子とショッピングすること自体、実に久々だ。

前はいつだっけと考えかけたけど、杏子の結婚前だったことをすぐに思いだす。

結婚て、こんなにも生活環境が変わってしまうものだということを、今さらながら実感する。



杏子が見繕ってくれたのは、袖周りにフェイクファーがついた、ワインレッドのワンピースだった。

こういう色みを自ら選ばないから、逆に新鮮だ。

試着してみたら、すっごい似合ってる、と杏子が連呼するので、それに決定した。


でも、なぜか妙にはしゃいだ杏子の様子が気になる。

この間会った時とは、打って変わってテンションがハイで。

元気なのはいいことだろうけど、逆に心配になる。

何か、あったんだろうか。



人ごみで喉が乾燥する。

お茶をしようと入った先で、訊いてみることにした。


駅ビル内の、ファッションフロアと同じ階にあるティールームは、落ち着いた雰囲気で。

休日のせいで、テーブル席のほとんどが埋まっているものの。

それでも静かな空気が漂う。



「実はね、旦那と喧嘩したの」



コーヒーが手元に運ばれてきてもなかなか口を割らず。

少し考えこむそぶりを見せたあとで、ためらうようにおずおずと話しだす。


喧嘩って、ただごとじゃない。

たまに送られてくるメールを読むかぎりでは、杏子のところは仲睦まじくて。

口論のひとつも起きない、円満な夫婦関係を築いているように見えたのに。



「なんで、喧嘩なんて?」

「……たいしたことじゃないんだけどね」



前置きして、薄い笑みをその口に浮かべると。

わずかに目を伏せて、その続きを紡ぐ。



「こないだ、あんたに会って思ったの、いいなあって」



うらやましがられるようなことは、何もないはず。

ひとり身で悠々自適ではあるけど。

年齢を考えると、結婚を焦る私に、羨望の眼差しを向けられるなんて。


そんなことは信じられない。

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