ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

私の上で陽平が力強く律動をくり返す。

小刻みな振動が身体の中心へと伝わって、そのたびに低く声を漏らす。


本当にあえいでいるのか。

刺激を与えられるから、何も関係なく声をあげてしまうだけなのか。

どっちなんだろう。



陽平は顔をぶるっと震わせると、飛んできた汗が胸の上に落ちる。

粘液のように妙に粘っこく、揺さぶられるたびに身体の上を微生物か昆虫のように移動する。

ただ不快で、気持ち悪い。

陽平は目を閉じているから、私が汗をさっと拭ったことにも気づかない。



下から観察する。

なんだか、やけに冷静だと思うけど。

行為に集中できない。



部屋は暗くしてほしい。

最初の時にねだった。

プロポーションには気をつかっているとはいえ、食事をしたあとにぽっこりとせりだす下腹を見られたくないのに。

そんなこと気にしないし、もともと太ってないんだし、と陽平はまともにとりあってくれず。

何度目かの話しあいの末、スタンドライトの豆電球だけをつけるようになった。


ぼうっとした、それでも十分に明るすぎるライトが、陽平の顔を薄暗い部屋に浮かびあがらせる。

細い鼻筋に影が落ちて、ひどく凡庸な、どこにでもいそうな顔なのに、彫りが深く見える。



やがて達したのか、陽平の全体重が身体にのしかかる。

いつもなら、その重力すらも心地いいもののはずなのに。



「早くどいて」



悪い悪い、と言うくせに口先だけ。

さして申し訳なく思っていないようなのんきな声が、耳に障る。


このマンションは壁が薄い。

隣に声を聞かれてしまうから、情事に及ぶのを嫌がったのに。

つきあって最初のうちは、隣人がいない時だけだったのが、そのうちにそんなことを忘れたように身体を求めてくるようになった。




ごはんを食べて、身体を重ねて、それから?



陽平はそのあとがない。

腕枕をしてくれたのは、最初のせいぜい半年まで。

もともと行為のあとの甘い時間を持つことにすら、面倒に思っていたようで、その時間が消滅するのをなんとも思っていないようだった。

行為のあとにキスをするのなんて、ほんの気まぐれでしかない。

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