ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

部屋に案内されて、立ちすくむ。

想像していたよりも、小ぎれいにしてある。

家に誘うと決めた前日の夜のうちに、片づけたのかもしれない。

見られては困るようなものも、なきにしもあらずだろう。


見回してみると、6畳ほどの室内のややドア寄りのところに、ラウンドのローテーブルが位置している。

窓に面した勉強机の隣には、ノートパソコンの置かれたラック。

その左脇に寄せられたカラーボックスには、スポーツカーのプラモデルがふたつ飾られていたり、本が並んでいたりする。


ふいに、落ち着いたブルーグリーン色が、視界に飛びこんできた。

ベッドの寝具だ。

下方に引きだしの備えられた、シンプルなシングルベッドだ。

サイドボードには、少年漫画が何冊か横積みになっている。

鼓動がにわかに加速するのを感じとって、思わず顔をそむけてしまう。



「どうぞ」



ラウンドテーブルの前であぐらをかきだした宏之が、隣に座るよう勧めてくる。

言われたとおりに従って、その横におずおずと腰を下ろすと。

わずかに肩が触れあう。


加速した鼓動がさらに速くなったのに、気づかないはずがない。




初めてのデートでショッピングモールに出かけた帰り、初めて手をつないだ。

雨の日には、傘に隠れるようにキスをすることは、何度もある。


肩が触れることくらいなんて、何を今さらなのに。

早鐘を打つ心臓の音が、やけにうるさい。


なのに、胸中を知るよしもない宏之は、涼しげな顔で。



「何から始めよっか? やっぱ、1日目の数学からかなあ」



スクールバッグからとりだした教科書類を、テーブル上に広げる。



「わかんないとことか、ある?」



気がそれていたところへ訊かれて、内心焦る。

うーん、そうだなあ、と数学の教科書を慌ててぱらぱらとめくる。

知らず知らずのうちにベッドへと向いてしまう意識を、なんとかしなくちゃ。



「宏之って、数学、得意なんだっけ?」

「得意ってわけじゃないけど、まあ、自信はあるほうかな」

「そうなんだ」

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