ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
動揺をごまかすのになんとか成功したものの、ブルーグリーンの寝具は、否応なく視界の片隅に映りこんでくる。
なんとしてでも気をそらしたくて。
来る途中にコンビニで買ったペットボトルのウーロン茶を、口に含ませる。
喉を流れていって、少し落ち着きをとり戻しつつある。
「ここの解き方がどうしてもわかんないんだけど」
「ああ、これね」
私が広げたノートをのぞきこむと、シャーペンを手にした宏之は計算式を鮮やかにくり広げていく。
「だから、③と⑪から(a, b)=(1, 2)と導かれて、これを④と⑤に代入して」
さらっと走らせていく宏之の字は、お世辞にも決して上手とはいえない。
けど、愛嬌がある。
aやbがころんと丸みを帯びていて。
女の子みたいな字で、愛らしい。
サッカーの試合で力強いプレーをしていた宏之からは想像できなくて、笑いをこらえるのに必死だ。
言ったら、へそを曲げられるかもしれないから、黙っておく。
「ほら、聞いてる?」
「う、うん、聞いてるよ」
「ならいいけど。続けるよ?」
改めてノートに視線を落とした宏之にならうように、今度はノートを食い入るように見つめる。
「だから、(a, b, c, d)=(1, 2, 3, 1)となるわけ」
「へえ、なるほど!」
「ほんとにわかったかチェックだね。これ、やってみて?」
教科書のページをくって宏之が指さした問題は、一度、授業中の演習時間に解いたものだった。
その時は制限時間いっぱいを使っても、結局は解けずに終わっている。
「ええ! もうスパルタだなあ」
愚痴をこぼすも、いいから早く、と急かされては、しぶしぶでも向きあうしかない。