ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

いざ問題と格闘を始めても、さっぱりわからない。

どうしよう。

きっかけの糸口すらも見つからない。


プラモデルの隣に置かれたアナログ時計の秒針の音が、妙に大きく響きわたる。

無情に進むだけの時間に、苛立ちと焦りが胸裏に広がりを始める。



「落ち着いて。さっき俺が解いた問題を思い返してみて」

「うん……」



宏之の低音は、リラックス効果でもあるんだろうか。

早く脈打ち続けていた心拍数が、徐々に下がってくる。


サイドの髪の毛を耳にかけて、眉根を寄せる。

ただの数字の羅列が続く問題は、目を向けるだけでも苦痛で、心なしか頭痛がするようだ。



さきほどの、宏之の書いた計算式を脳裏に思い浮かべてみる。


もしかして、ああすればいいのかも。

何かがひらめく感覚が、かすかにあった。

その手ごたえを手放すまいと、悩みながら、つっかえながらもシャーペンを動かしていく。


私の手の動きに寄せられる宏之の視線に気づいて、身体が熱くなる。



「できた……!」

「見せてみて」

「いいよ」



私の前にあったノートを宏之のほうへずらす。

いいよ、なんて快諾したものの、その実、ドキドキしていた。

途中で計算ミスをしている可能性は、拭いきれない。


びっしりと書きこんだ数式を、宏之は目を光らせるように上から順に確認していく。

手ごわそうな相手だ。

うん、うん、と時折低くうなずく宏之の声が、険しい。



「いいね、いいよ、合ってる」

「ほんと!?」



思わず身を乗りだしていた。

はずみがついたのか、宏之に抱きついてしまう。



「ちょ、ちょっと……」

「……あ、ごめん」



謝るものの、暖房が室内にほどよくきいているとはいえ、人肌に触れているのは心地よくて。

抱きついた格好のまま、顔を上げる。



「あのさ俺、さっきから理性で抑えて、すっごい我慢してるんだけどさ」



何? と視線を向けた先で、宏之は顔をわずかに赤らめている。

我慢て、なんのことだろう。


首をかしげて、宏之の顔を見つめる。

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