ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「さっきも髪の毛耳にかけた時、シャンプーのいい匂いがふわって香ってきてさ」
サイドの髪の毛を、後ろへ流した時のことだろう。
決して誘惑するためなどではなく。
はらりとテーブルに落ちてきて、問題を解くのに邪魔になって耳にかけるしかなかったというのに。
自分じゃ気づかないシャンプーの匂いなんて。
そんなものが宏之の欲情のスイッチを押していたことに、どうして気づけただろう。
「そっちがあおったんだからな」
熱のこもった視線が、私へと向けられる。
肩にかかる髪の毛をひと房すくうと、そこに紅い唇がゆっくりと寄せられていく。
花びらにキスするように、その手つきは優しい。
でも、だからって。
そこにキスする?
今さっきの発言を思えば、唇にキスという流れになるのが自然じゃないだろうか。
なんで。
「何、不満そうな顔してんの?」
「だって……」
「ふうん?」
口ごもった私の顔を下からのぞきこむように、何かを画策しているような瞳が、無邪気だけども妖しげに光る。
「どこにキスしてほしいか、言ってごらん?」
まさか、ハメられた?
思惑どおりにまんまと乗せられたことに気づいても、もう遅い。
せめて、妖艶な笑みから逃れようと、顔をふいっとそむけたら。
逃がさないと言わんばかりに、伸びてきた手が顎にかけられ、強引に上を向かされる。
絡みあう視線から逃げようと抵抗する気には、もうなれない。
だって、望んでいたのは、これだから。
素直にまぶたを閉じるしかない。
徐々に近づいていく気配が、ついには隔てるものがなくなった、その時。
触れあう唇の、なんともいえない柔らかな感触に包まれていた。
角度を変えて、口づけられる。
今までにキスしたことは何度もあったけど、きっと、今までで一番甘い。
しばらくして離れたと思ったら、今度は少し強めにふさがれた。
何気なく開けてしまった唇の隙間から、舌が遠慮がちに割り入ってくる。
初めての、深いキスだった。