ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「ねえ、親は?」
ベッドのへりに、倦怠感のとどまる身体を預ける。
隣には、ぴったりと肩を寄せて片膝を立てる宏之がいる。
私は制服のシャツを羽織っていたけど、宏之は上半身裸だ。
結局、ブルーグリーンの寝具の上で抱きあうことは、なかった。
視界にとらえては、ドキドキと胸を高鳴らせていたというのに。
すぐそばにあるベッドまで行くのさえ、惜しかったのだ。
宏之にしても、それくらい余裕がなかったんだろう。
カラーボックス上の時計で時刻を確認すれば、もう5時を過ぎている。
それなのに、宏之の両親はまだ帰ってくる気配がない。
私の母は専業主婦で、こんな時間まで帰ってこないなど、考えられないのだ。
ふう、と息が吐きだされると。
あきれたような目が、こちらに向けられる。
「今さらそれ、訊く?」
「訊きそびれてただけだし」
「まあ、俺が強引に誘ったからね」
悪い、と謝りながら、宏之は私の髪の毛をそっと梳いていく。
「今日は帰ってくるの、遅いんだ。6時過ぎないと帰ってこないよ」
だから、誘ったんだけどね。
いたずらっぽく目を細めて、宏之は笑う。
とすると、あと1時間は帰ってこない。
だからさ、と意味深に続ける。
「もう1回、しとく?」
腰が引けそうになりつつも、不敵に誘う宏之に手首を力強くつかまれてしまう。
嫌なら、やめとくけど。
私が断れるわけがないと知っていながらそう訊ねる宏之は、最高に意地の悪い笑みを向けていた。
すっかり疲弊しきった私は、少しだけ休んで、宏之の家をあとにすることにした。
外に出ると、さすがにとっぷりと日は暮れて、真っ暗だ。
肌寒さにぶるっと身体を震わせると。
冷えるからね、と雑にかけただけのマフラーを、宏之がきちんと巻き直してくれる。
帰らなくちゃいけない。
帰らなくちゃ、いけないけど。
離れがたくて、名残惜しそうに見あげたら。
唇にキスが降ってきた。
少しだけ長いキスから解放されて、ゆっくりとまぶたを開けた、その片隅に。
チカチカとまたたく光が、映りこんできた。