ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
なんだろう。
なんなのか気になって、周囲を見回して気がつく。
光の正体は、ライトだった。
向かいに建つ家の、こちら側の通りに面した窓にライトが灯っている。
短い間隔でついたり消えたり点滅をくり返すライトは、クリスマスのイルミネーションだ。
よくよく見れば、リースや雪だるまなどのジェルステッカーが、窓ガラスに貼られているらしかった。
「もうすぐクリスマスだね」
「ああ、そうだな」
期末が終わったらな、と宏之はつけ加える。
余計なひと言を。
今だけは忘れて、向かいのライトの、幻想的でロマンチックな雰囲気に浸っていたいのに。
ムードのかけらもない現実的な発言にげんなりしつつ、少しだけ頭に来て。
こぶしをつくって、小突く姿勢を見せたら。
「プレゼント、何かほしいものとか、ある?」
真面目な顔に戻って、訊いてきた。
ほしいものかあ。
何か、あったっけ。
少しだけ考えこんで。
「宏之がくれるものなら、なんでも嬉しいよ」
「そういう返事が一番困るんだけど!」
困ったように眉を寄せた宏之は、期待しとけよ、と笑う。
宏之は自宅まで送ってくれて、その間、ずっと手をつないでくれた。
イブを迎えて、プレゼントしてくれたものは、シルバーのブレスレットだった。
チェーンは細く、じゃらじゃらとしていないシンプルなデザインは、日常使いしやすい。
夏服の時は無理でも、冬の制服の時はシャツの下に隠して身につけていた。
気に入って、重宝していたのに。
だけど、今はもう、手元にはない。
宏之が大学進学で上京したあともつけ続けていたら、ある日、ドアノブに引っかけてしまい。
チェーンがプチッと切れてしまったのだ。
まるで、宏之との関係が完全に終焉を迎えてしまったかのように。
修理に出しても、チェーンごと切断しているから手の打ちようがない、と断られてなすすべがなく。
元彼からもらったものを、いつまでも身につけていたバチが当たったんだ、と杏子にはからかわれ。
切れたチェーンが惜しくて、恨めしいと思いながらも、処分するしかなかったのだ。