ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
私が宏之にプレゼントしたものは、財布だった。
わずかなお小づかいの範囲で買ったもので、チェック柄で有名な、イギリスの老舗ファッションブランドが展開する、パーソナル小物ラインだ。
小銭入れの部分が外側についているデザインを、宏之はかなり気に入って。
すぐにお札や小銭を移動させて使いはじめたけど、今は別のものにとって変わっていることだろう。
卒業アルバムから顔をあげる。
視線が向かうのは、パソコンラックの奥。
そこには、今週なかばになって慌てて飾った、15センチにも満たない手のひらサイズのミニツリーが鎮座している。
何年か前、デパート内のコスメコーナーでクリスマス限定のコフレキットを購入したら、ノベルティか何かでもらったものだ。
今年も、すでにそんな季節。
ほしいものは? と訊かれたら、今なら考えるまもなく真っ先に婚約指輪をあげるだろう。
決して声には出せるはずもないけど。
無邪気にねだったところで、その相手は応えてくれるか、わからないけど。
いや、きっと。
きっと、応えてはくれないだろう。
なんだか、あきらめの境地に足を踏みこんでしまっているのかもしれない。
ため息をついて、卒業アルバムをぱたんと閉じると。
「何してるの?」
いかにも寝起きとわかる声が、背後から聞こえた。
あれ。
10分後に起こして、と言っていたはずなのに。
まだ10分もたっていないはずなのに。
肩越しに振り返ると、陽平はベッドの上であぐらをかいている。
「いつ、起きたの?」
「ついさっき」
卒業アルバムにふけっているところを見られたのかどうか、微妙なところだ。
でも、特に何も訊いてこないってことは、見られていないのかもしれない。
陽平の平然とした態度からは、どっちなのかさっぱり読めない。
もし見られていたとしても、元彼が映っているとは知らない陽平が、さほど気にとめることはないだろうけど。