ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

ベッドの上を移動して、陽平が私を後ろから抱きしめてくる。


はずみで、手に持っていた卒業アルバムがカーペットに落ちた音は、陽平にも届いたはずなのに。

あくまでも知らないふりを続けるんだろう、髪の毛に口づけて、耳たぶに熱を含んだ吐息がふーっと吹きかけられる。

甘く噛まれては、それだけでもう、身をよじってしまいそうになるのに。

肩に回された陽平の手がしっかりと押さえつけて、身動きさえままならない。


こういうそぶりを見せてくるということは、2回戦開始のサイン。

それがわかるから、身体の奥が勝手にじんとうずき始める。


陽平の片方の手が、羽織っているロングカーディガンを脱がしにかかる。

するりとカーディガンは素肌をすべり落ち、あらわになった胸に陽平の片手が添えられると。

慣れた指づかいで、先端にリズミカルな刺激を与えられる。


もっと触れてほしい。

そこじゃない。

下に触れて。


けど、あいているはずのもう一方の手は肩を抱いたままで、下降を見せない。



ねえ、下に触れて。

陽平のペースにすっかり引きずりこまれてしまっているとわかっているのに。

いい加減、じれてしまう。



「ねえ、早く」

「んーでも、する前に言っとかなきゃいけないことがあってさ」

「言っとくこと?」



なんだろう。

別れ話を切りだすつもりだろうか。

告げられても、たぶん、仕方はない。

惰性だけでいつまでもずるずるとつきあいを続けても、きっと、お互いのためにはならない。


多少のショックは免れないだろうけど、前から、覚悟していないこともなかった。

こんな状況で伝えられるのは、悲しい以外の何ものでもないけれど。

こういう状況だからこそ、言えることもあるのかもしれない。



だけど。

陽平が発したのは。



「24日、あけといて」



え、と目を瞠って、肩越しに見返す。

今のって。



「どういうこと?」

「どういうことも何も、クリスマス、一緒に過ごそうって言ってるんだけど」



わかった、と返事しようとした唇をふさがれた。


プレゼント、買わなくちゃ。

何を買おう。

何を渡したら、喜んでもらえるだろう。

身体じゅうに熱烈な抱擁を受けながら、思考の片隅で考える。




先ほどよりも、陽平に向きあえた気がした。


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