ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

……そっか。

仕事中、自席の傍らに置いている卓上カレンダーを眺めていて、気がついた。


24日は木曜日だ。

平日で、もちろん仕事がある。


事前に会えることを伝えておいてくれないと、私はいつものように残業をしてしまう。

そうなれば、イブとはいえ、夜にふたりで過ごすのは難しくなる。

社会人にもなれば、24、25日のどちらかが休日でもないかぎり、日常の一部として溶けこんでしまいがちだから、陽平はそれを危惧したに違いない。


まだまだ陽平に想われている。

そう思いこんでも、間違いじゃないのかもしれない。



ゆるみそうになる口元を引きしめて、店内を物色する。

繁華街の中心部の大通りに立地するブランドの旗艦店は、クリスマスまであと1週間ほどと迫っているせいか、多くの人足で大変なにぎわいを見せている。

私のように、誰かへのプレゼントを求めにきた人なんだろう。


クリスマス前に、女がメンズファッションを扱うフロアに足を運ぶというのは、さりげなくクリスマスを彼氏と過ごすアピールになるようで。

どこか誇らしげな気持ちになる。



さて、今年は何をプレゼントしよう。

去年は腕時計、その前はパスケース。

名刺ケースは、つい最近、自分で新調していた。


タブレット端末がほしいと言っていたのを覚えているけど。

スペックを重視する陽平に、女性が感性だけで選ぶものを気に入ってくれるとは、とうてい思えない。





宏之には、2年目のクリスマスにはマフラーをプレゼントした。

もらったものは、ローズクォーツが花びらの形をかたどった、小ぶりのピアスだった。

淡いピンク色が、桜の花のようにも見えるデザインだった。


まだ3年で、ピアスの穴すらあけていなかったのに。

春になったら、そのピアスをつけて会おうよ、って約束したのに。

約束が果たされることは、なかった。


その頃には、宏之は東京の私大を志願するのを、決めていたはずなのに。

聞かされたのは、1月のセンター試験間際だった。




宏之は、私との関係を、どうするつもりだったんだろう。

私が推薦で地元の女子大に合格したのを、知っていたはずなのに。

遠距離になっても、続けるつもりだったんだろうか。

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