ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

宏之と一緒に過ごした誕生日は、お互いに一度だけ。

私の誕生日が7月の夏休み直後で、宏之の誕生日は3月下旬の卒業式後。

高2の秋に出会った私たちは、一度ずつしか祝いあうことができなかったのだ。




慌ててかぶりを振る。

宏之のことを考えても、もう過去の話。

とっくの昔に、終わった恋なのだ。

今さら何をどうあがこうとも、あの時間には戻れない。



「どのようなものをお探しでいらっしゃいますか」



いつの間にかそばに近寄っていた店員さんに声をかけられて、顔をあげる。

今は、陽平へのプレゼントを選ばなきゃ。

そうですね、と考えながら、ショーケースの中をのぞきこむ。


陽平はアクセサリー類を身につけない。

何年か前の誕生日にあげたネクタイは、使用されているのをいまだ見たことがない。

彼のセンスと合わなかったんだろう。


小物類なら細かいこだわりはないようで、不承不承といった様子ながらも、使ってくれる。

いまいち、そのあたりの線引きがよく理解できないところではあるけど。

とすると、プレゼントも小物類を選ぶのが無難だろう。



そういえば、と思いあたる。

10年ほど前に、大学の卒業旅行先のイタリアで買ったと聞いているキーケースが、レザー製ではあるけど先端の糸がほつれかけて。

そろそろ新調したいと言っていた気がする。

そうだ、それにしよう。



「キーケースって、ありますか」

「はい、こちらにございます」



店員さんが案内してくれた棚には、キーケースが2種類並んでいた。

一方は、表面にブランドロゴが刻印されただけの、ごくごくシンプルな黒いレザーだ。

お色違いでブラウンもございます、とにこやかに言い添えてくる。

シンプルなのはいいけど、シンプルすぎて、どこかもの足りない。


もう一方は、見た目は黒いレザーで、シンプルな印象は同じ。

けれど、内側にひと目でこのブランドだとわかるマルチストライププリントがあしらわれて、デザインとしては上品だ。

こっちのほうが、断然おしゃれ度がアップする。


どちらもキーリングは4連だ。

陽平自身のマンションと、私のマンションの合鍵と、陽平の実家と、車のキー。

それだけつけられたら、過不足はない。


迷うまでもなく、マルチストライププリントのほうを選ぶ。

あとは、陽平が愛用してくれるかどうか。

せめて、喜んでくれたら、いいけど。

< 46 / 103 >

この作品をシェア

pagetop