ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

キーケースの内側にプリントされていたのと同様の、マルチストライプ柄の紙袋を携えて、意気揚々とショップをあとにする。

コートのポケットから携帯をとりだして時間を確認すると、まだ3時を過ぎたところ。

暖房のきいた店内に長くいつづけたせいか、乾燥して喉が渇いている。


この先を少し行ったところに、コーヒーのおいしいカフェがあったはずだ。

時間も時間で、店内は混雑しているかもしれないし、待たされるかもしれけど。

よし、そこへ行こう。


12月と4月の平均気温は同じくらいだ、と陽平から聞いたことがある。

けれど、吹きつけてくる風が12月のほうが冷たいから、体感温度は12月のほうが必然的に寒く感じる。



北風に髪の毛があおられる。

さっきまでいた店内が暖かすぎて、外の寒い気温変化にすぐになじめない。

早く温まりたい。

コートの襟をかきあわせながら、カフェを目指してひた進む。



休日の昼さがりのせいか、クリスマスカラーに彩られた街なかを多くの人が行き交う。

ひとりの人もいれば、カップル連れ、友だち連れの人もいる。

人々の顔がなんとなく華やいで見えるのは、クリスマスという魔法にかけられたからだろうか。



前方からプレゼントを抱えた幼い男の子が、勢いよく駆けてきた。

ぶつかりそうになって、慌ててよける。

紙袋は手放さなかったら無事だとわかっているけど、念のために中を確認する。

大丈夫、ラッピングは崩れていない。



もうだめでしょ、ちゃんと前向いて歩かなきゃ、と後ろにいた女性がさっきの男の子を叱っている。

男の子の母親なんだろう。

女性のお腹は大きく前にせりだしていて、妊娠しているんだろうことがうかがえた。

出産間近なのかもしれない。


男の子は母親に何かを言われたらしく、しょぼんとして私に向き直ると、ごめんなさい、と頭を下げて謝った。



「いいよ、大丈夫だった?」



優しく聞こえるように言うと、男の子はとたんに笑顔になって、うん大丈夫だよ、と大きな声で返事した。

女性にも軽く会釈をして歩きだそうとすると。

ちょっと待って、と震えた声が背後で響いて、足を止めて振り返る。


彼女は大きく目を見開きながら。



「まさか、あなたって……」



私の名前を、口にしたのだ。




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