ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
杏子は手の中でワイングラスをゆっくりと揺らす。
赤い液体が、グラスの中で静かにさざ波を立てる。
その揺らめきを眺めながら、和田梓の顔を思いだす。
「和田ですよ、和田梓。高1の時、同じクラスだった」
きょとんとしていた私に、和田梓はうっすらと微笑みを浮かべて、そう声をかけてきたのだ。
記憶にある高校時代の人物データと照らしあわせるも、仲よくしていなかった人の一致は、なかなか難しい。
ふと思いあたったのは、にぎやかなグループの一団。
その中のリーダー的な存在で、常に威圧的なもの言いをしていた彼女の姿だった。
授業そっちのけで、放課後に遊びにいくことを生きがいとしていたような、どこにでもよくいる高校生像を絵に描いたようでもあった。
当時はメイクばっちりの、身だしなみにいっさいの妥協さえ見せないような彼女が、今となってはナチュラルメイクよりも薄いメイクを施すのみ。
足元はフラットなムートンブーツだ。
妊娠しているせいもあるのかもしれないけど、あまりにもの変貌ぶりにすぐに気づかなかったのも無理はない、と納得する。
「あ、ああ、和田さんか……」
「今は梅津なの。新卒で入った会社で今の主人と出会って、結婚したの。今も東京に住んでるんだけど、こっちに里帰りしてて」
楽しげに笑う和田梓は、左手薬指の指輪を主張するように口元に手を添えて、大きなお腹を片手でなでる。
訊いていないことまでぺらぺらしゃべりだすのは、自慢したい欲求の現れだろうか。
やっかいな人物と出会ってしまった。
いつまでも立ち話を続ける気にならない。
どうにかして早々に話を切りあげなくては。
「そうそう、同窓会のハガキ、届いたよね」
こっちの心境を察知できないのか、和田梓は構わず話題を振ってくる。
「和田さんは行くんですか」
「だから、梅津ですって、今は」
梅津姓にすぐになじめるはずもないだろうに。
和田梓は機嫌を損ねたふうでもなく、なごやかに話を続ける。