ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
もう12月、か。
あとひと月でこの関係が劇的に変化することは、ないだろう。
平凡で、だけどもあくびを噛み殺しそうなほど退屈でもあって。
それでも、愛おしい。
恋愛初期の頃のように燃えあがる気持ちはすでに消えてしまっても、巡ってきたのは穏やかな時間で。
居心地はいい。
だから、隣に寄り添いつづけるのだ。
すでに空になっている陽平のグラスにビールをつぐ。
「明日も早いんでしょ?」
「早いよ。早いけど戻るよ」
訊き返す間でもなく『戻る』の意味を瞬時に理解する。
ビールを流しこみながら横目で私を見る陽平の目の奥に、熱いものを感じとって。
鼓動がかすかに振れた。
マンションに戻ると、陽平は慌ただしく私を抱いた。
駅まで送ろうとしたら、やんわりと断られた。
私が疲れていたのを知っていたからだろう。
ベッドで倦怠感に襲われている身体を休めている私をよそに、そそくさと着替えると唇同士を触れあわせるだけのキスを交わして、陽平は帰っていった。
3駅離れたところに、私と同様、陽平はマンション住まいをしている。
双方ともにひとり暮らしをしているのに、いまだに同棲の話すら出たことがないのは、その気がないせいだろう。
それなら、なおさら結婚話も出るはずもない。
ひとりで勝手に焦っているだけ。
前に、結婚に関するドキュメンタリー番組をふたりで観たことがあった。
何か面白い番組はないかと、次から次へとチャンネルを替えている時に放送していたもので、偶然目にとまったのだ。
観終わったあと、感動の余韻に浸りつつ話題にした時。
陽平はあからさまに険しい顔つきに変わった。
何を話しかけても、うん、ああ、まあ、などうわの空な返事ばかり。
ろくに会話が成立しなかった。
以来、私から結婚の2文字を切りだせずにいる。
やっぱり、もう潮時なんだろうか。
でも、と思いとどまる。
陽平といる時間は、かけがえのないものであることに変わりはなく。
結局はループだ。
どんなに考えても、迷路から脱出するすべは、どこにも見つからない。