ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「でもね」
ふいに、杏子が語調を強める。
顔をあげた杏子と、視線が重なる。
ふわりと笑む瞳の奥に、何かしらの強い決意が宿っているようにも見えた。
「ないものねだりを、ないものねだりのままで終わらせる気なんて、さらさらないの」
「え?」
意味を瞬時に飲みこめない。
どういうことだろう。
ないものねだりは、ずっとないものねだりのままじゃないんだろうか。
じたばたとあがいて欲しても、手に入れられないものじゃないんだろうか。
杏子の顔は、アルコールのせいでほんの少し赤らんでいる。
飲むのが好きなわりに家系的に弱いので、すぐに顔が赤くなるのだ、とずっと前に本人が話していた。
まさかグラスワイン1杯で酔うほど、そこまで弱くはなかったはず。
でも、妊娠したり、子どもを出産したりすれば、体質が変わってしまうこともあると聞いたことがある。
味覚が変わって、苦手だったはずのものが食べられるようになったり。
肌質が変わって、敏感肌になってしまったり。
とすると杏子の場合、以前よりも弱くなってしまったんだろうか。
ろれつが回っているといっても、それで大丈夫とも限らないだろう。
けれど私の心配をよそに、杏子は得意げに続ける。
「ないものねだりを叶えるには、自分でなんとかするしかないってことでしょ」
「何する気?」
「ま、土日の仕事にありそうな資格の勉強とかね」
そこまで言いきってしまうということは、すでにいくつかの目星をつけているんだろう。
自分で道を切り開いていく。
それがたとえ険しいいばらの道だろうと、こうと一度決めたことは、構わず突き進んでいく。
ちょっと反対されたくらいでは、簡単に引きさがったりしない。
簡単にあきらめたりしない。
それが杏子だ。