ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
notice 05 問い
女の恋は、上書き保存で。
男の恋は、新規保存。
会社の昼休憩のことだった。
昼時になると路上でワゴン販売されるお弁当を、自席で黙々と食べ進めていると。
後ろの席に座る同僚の女の子が話していたものが、聞こえてしまったのだ。
元彼に復縁をしつこく迫られて困っている、と別の子に相談を求めていた。
男の恋は新規保存だから、たまに元カノフォルダを開けてみて、過去の恋にふけっているだけだから。
そんなアドバイスにもならない受け答えをしていた。
女の恋は上書き保存だから、とっくに忘れてるってのにね。
彼女たちが笑い飛ばしていたあの会話が、むげにあしらうからかい声とともになぜだかよみがえった。
同窓会開催の案内が届く、ずっと前の話。
そんな話を偶然にも小耳に挟んでしまった時、なるほど、たとえ方がうまく、言いえて妙だなと感心しきりだったのに。
女の恋だって、本当に大切にしたいものだけは、片隅によけて上書き保存したりしないようロックするんだと思う。
私の場合、それが宏之だった。
中には想い出という名の、いろんなものがたくさん詰まっている。
一緒に撮ったプリクラ。
プレゼントされたブレスレット、ピアス。
一緒に過ごした時間。
もらった言葉たち。
好きだという、一途な想い。
陽平以外にも、いくつかのその場を楽しむだけの短い恋愛をしてきたはずなのに。
それらは跡形もなくすべて陽平に塗り替えられている。
もし、宏之と名づけられたフォルダがほかの男性の名前に変更され、上書き保存されていたなら。
もう二度と思いだすことは、なかったかもしれない。
たとえ思いだしたとしても、過去にあんな男とつきあったな、と思う程度だっただろう。
女は男以上にリアリストで、前だけを向いて歩いていくものだから。
後ろは、めったに振り返らない。
なぜ上書きされなかったのか。
きっと、私自身にもその答えは、一生かかっても見つけられない。