ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
吐く息が白い。
腕時計を見やる。
約束した時刻の10分も前に着いてしまった。
冬は日が暮れるのも早いから、空にはいくつかの星がきらめいているのが見える。
けれどさすがはイブで、駅前の広場には、私と同じように誰かと待ちあわせるらしい人の姿が何人も見受けられる。
広場の向こうにあるガラス張りのショッピングビルは、カラフルにライトアップされ、彩りが添えられている。
赤。
緑。
クリスタル。
鮮やかな色彩の明滅。
こういう華やかな雰囲気は、気持ちも自然と高ぶってくるから、嫌いじゃない。
きっと、東京のイルミネーションはもっときらびやかなんだろう。
――え?
東京?
考えて、愕然となった。
東京という固有名詞が、なんの脈絡もなく急にポンと思い浮かんだことが、自分でも信じられない。
東京は、宏之のいる場所だ。
和田梓が話していた。
かわいらしい女の子といる宏之を見かけたと。
宏之の隣にいるのは、私じゃない。
イブを一緒に過ごす相手は、私じゃない。
私は陽平とイブを過ごすのに。
宏之のフォルダも、誰かに上書きされれば、よかったのに。
だけれど、宏之に再会する日は、もう眼前に迫っている。
杏子は、自身の不参加を返信ハガキで事前に知らせてはいた。
改めて告げると同時に、幹事役の子に確認したのだ。
この胸の高鳴りは、陽平を待つ期待によるものなのか。
それとも、宏之に10年越しにようやく会える不安によるものなのか。
どっちなのか、わからない。
うつむいて、石畳の道へと視線を落とした時。
「待った?」
突然、背後から声をかけられた。
誰かと思えば、陽平だ。
冬のマストアイテムのごとく毎日のように羽織っている、黒いコートのポケットに両手を突っこんでいる。
見慣れた格好だけに、自然と口元がほころびそうになる。
「少しだけ」
つきあい当初は待っても、全然とか、今来たとこ、と嘘を答えていたのに。
いつから本音をいえるようになったんだろう。
私が待つことが当然の習慣になっているから、いつからか、遅れてごめん、と陽平も謝らなくなった。