ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「行こうか」
くるりときびすを返すと、ショッピングビルとは逆方向に向かって歩きだす。
あれ。
ショッピングビルの最上階は、確かレストランフロアになっていたはずだ。
そこに向かうものだとばかり思いこんでいた。
連れて行ってくれるのは、どうやら別のところらしい。
どこだろう。
首をかしげながらもすぐに追いついて、陽平の隣に並ぶ。
「ねえ」
人ごみをかき分けながら進む陽平に声をかける。
「連絡くれるの、遅かったんだけど」
待ちあわせの約束のメールを受信したのは、23日も終わり、0時を少し過ぎた頃だった。
その前4日間ほど、陽平とは音信不通の状態だった。
メールを送っても、返事は来ない。
電話をかけてみても、留守電ばかり。
12月は激務が続くと事前に聞いていたとはいえ、さすがに不安にならずにはいられなかった。
大丈夫だろうか。
過労で倒れていたりしないだろうか。
さんざん気をもんだのに。
それが、いきなり一方的に落ちあう時刻と駅名を指定された。
「ちょっと、いろいろ立てこんでたんだよ」
ぶっきらぼうな声だ。
私の顔を見ない。
心配したのに、たったひと言だけで済ますなんて。
いろいろって、何。
立てこんでたって、何。
4日間も連絡すらできなくなるくらい、多忙すぎたってこと?
毎日会いたいとか、毎日電話したいとか、べつにそんな甘ったれたことを言うつもりはない。
互いを尊重すべきだし、プライベートな時間を確保したいのはわかる。
だけど。
どんなに忙しくても、時間がなくても、それでもなんとかやりくりして時間をつくって。
それで、声を聞いたり、会ったりするのが、好きという気持ちを相手に示すことだと思う。
ましてや、24日に会う約束だけ交わして、そのあとはほったらかしなんて。
待ちあわせ場所や時間を早くに教えてくれないと、不安になるこっちの気持ちくらい、少しは察してほしい。