ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

やっぱり、もう終わりということだろうか。

多忙を理由に会うのが減少するなら、つきあう理由をどこに見いだせばいい。

そういうのが交際終焉のシグナルだというのは、恋愛特集のサブカルチャー誌や恋愛指南書を開けば、必ず載っているほどのセオリーだ。

知らないなんて、いわない。



ふいに。

げ、と小さくうめく。

やってしまった。

片足を動かそうとして、できない。


日常使いのパンプスは、デザインもさることながら、足首がきれいに見えることを考慮して、ヒールの細さを重要視する。


だけど時として、この細さが仇となる。

先の細いヒールは、マンホールにある小さな穴にすっぽりはまってしまうのだ。

今までに何度、経験していることか。


気をつけていれば、平気でよけられる。

けど、うっかり気を抜けば、これだ。



陽平は私に気づかない。

その背中は人ごみに紛れて、見えなくなる。



早く追いつかなくちゃいけないのに。

焦れば焦るほどどんどん深みにはまっていくようで、ヒールはマンホールから抜けない。


どうしよう。

早くしなきゃ。

寒風が吹き荒れているのに、身体が妙に熱く火照る。




マンホールと格闘する私の前に、突然、黒い影ができた。

大きな手のひらが、無言のまますっと差しだされる。

見るからに、男性の、骨ばった手。


え、誰。

怪訝に顔を上げる。


とっくに先を歩いていると思っていた陽平が、私よりもおそらくはもっと訝しげな顔で見おろしている。

横を歩いていたはずの私がいなくなったことに気づいて、引き返してきたんだろう。



「何やってんだよ」



あきれ声だ。



「えっと、その」



説明するのも恥ずかしい。



「ほら、つかまれよ」

「え、でも」



最近は外出しても、手をつなぐことはなかった。

腕を組むといったこともない。

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