ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
そういえば、郵便物を確認していなかった。
まだ体力の回復しきらない身体をなんとか起こして、ベッドを抜けだす。
ベッドの向かいに設置している、パソコンラックの椅子にかけてある膝丈のチャコールグレーのロングカーディガンを素肌の上に羽織る。
ローテーブルのそばまで進んでいって、郵便物を確認する。
通販のカタログ、クレジットカードの請求書のほかには、1通の往復ハガキ。
「同窓会、するんだ……」
高校の同窓会の案内だった。
卒業して早10年がたつ。
その節目を記念して、同窓会を開催したいとの趣旨が記載されてある。
開催場所は有名シティホテルの一室を貸しきるようだ。
誰が来るんだろう。
そう考え始めた時。
『押しつけられて、まいったよ』
ふいに、頭の中で響く声。
テノールの柔らかい声は、男性のものだ。
当惑げに後頭部をぽりぽりとかきながら、はにかんだような笑みを浮かべている顔。
浅黒く日焼けしていたのは、サッカー部に所属して練習に明け暮れていたからで。
紺色のブレザーの制服が、均整のとれたしなやかな肢体によく似合っていた。
今さらのように思いだした彼に、忘れていた想いがよみがえりそうになる。
違う。
忘れていたんじゃない。
この10年間、思い返そうとしなかっただけだ。
思いだしても仕方のない、過去のことだと無理にケリをつけたから。
なのに、かすかに高鳴りを訴えるこの鼓動は、どう説明をつけたらいいんだろう。
過去の恋。
あの時、二度と振り返らない、と心に決めたはずなのに。
彼は、同窓会に出席するんだろうか。