ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
ワイシャツとTシャツを脱ぐのを手伝う私に、鎖骨にキスを落としてくる。
「そんなに早くしたい?」
にやりと唇の端を持ちあげながら、意地悪そうに訊いてくる。
答えなんて、わかっているくせに。
だけど、気持ちを見透かされたことが悔しくて、ごまかすために私から唇を重ねていく。
それを合図とするように、キスが深みを増した。
背中に腕を回すと、すでに陽平の身体が熱いことに気づく。
熱い。
エアコンはもともとマンションに備えつけられているもので。
少し古いせいか、入れた直後はすぐにはきかないはずなのに。
なんだろう、この熱さは。
……あ、違う。
陽平だけが、熱いんじゃない。
私の身体も、すでに熱いんだ。
なんだ、そっか。
そういうことか。
私自身の気持ちの問題だったのか。
あえいでいるのか。
刺激を与えられるから、何も関係なく声をあげてしまうだけなのか。
気持ちが陽平だけに向いてさえいれば、そんなことは考えるまでもないことだったのに。
それなのに私は、結婚にこだわりすぎるあまり、大切なことを見失いかけていた。
結婚をするとか、しないとか、そんなことは関係がない。
私自身の、陽平を想う気持ちがちゃんと存在していれば、それでいいことなのに。
うん、ここにある。
陽平への気持ち。
出会った頃のようなときめきはなくても、好きという気持ちは、何も変わっていない。
目を閉じる。
じっとりと汗ばんでくる陽平に抱かれるのは、ひどく気持ちがいい。
陽平はいつもより丁寧に私を扱った。
猛々しさや自分勝手さは、どこにもない。
気づかうような舌づかいと、指づかいと、腰づかいと。
宝物に繊細に触れるような情事は、私の名前を何度も何度もくり返し切なげに呼んで。
大切にしているという赤い印を、身体じゅうに刻みつけられる。
自然に握りあっていた手と手。
絡めあった指の先。
左手の薬指を彩る指輪は、薄暗がりの室内でもその輝きをとらえることができて。
それを見て相好を崩す陽平を、下から見つめる。
――私。
この人と結婚するんだ。
この人と、家族になるんだ。