ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「マンション、早く解約しろよ」
コーヒーをいれたマグカップを差しだしながら、陽平が言う。
なんのことかわからず、ローテーブルの前であぐらをかく陽平をきょとんと見返す。
はあ、とわざと聞こえるような、大仰な吐息をついた陽平は。
「一緒に住むんだろうが」
にやりと笑う。
鍵なら、すでにもらっている。
あとはこのマンションを解約して、引っ越すだけなんだ。
やっと得心がいったところで、マグカップを受けとる。
「陽平は? どうするの?」
「俺は年内で解約するように、管理会社に連絡してあるよ」
「じゃあ、年明けに引っ越し?」
そうなるなあ、と細めた目が笑う。
私も、明日にでも管理会社に電話しよう。
もうイブだから、今月末の解約はできないかもしれないけど。
1日でも早く一緒に住めるように。
例年なら、部屋を掃除したりしながら、陽平とふたり、のんびりと気ままに過ごす年末年始だけど。
なんともせわしなくなりそうだ。
でも、全然嫌な気はしない。
「このベッド、処分しろよ」
ふーふーと息を吹きかけて、コーヒーを冷ましていると。
ローテーブルで思案げに頬づえをつく陽平が、ぽつりと告げた。
「なんで」
「一緒に住むマンションの間どりな、2LDKで、寝室がひと部屋しかないんだ」
「え、でも」
「ダブルベッドを買ってある」
ダブルベッドって。
何を相談もなく、勝手に決めてるの。
そんなものまで買うから、ただでさえ多忙な今月に拍車をかけていたんじゃないか。
「もうひと部屋あるんでしょ? そっちは?」
問いかけた私に、陽平は戸惑いがちに目を伏せる。