ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
それでも気づけなかったのは、その時にはまだこっちの大学を受けるとばかり思いこんでいたからで。
いったい、いつから東京の大学を受けることを視野に入れていたのか。
それらしい会話は何もしてこなかっただけに、衝撃が大きすぎた。
11月の、私の推薦入試の合格結果は伝えたのに。
宏之は入試のことなど何も話さず。
もしかしたら、故意に避けていたのかもしれない、とようやく気がついた。
「引っ越しさ」
私の顔を見ようとしないまま、宏之は口を開く。
ひどく楽しげに話すのが、憎らしいとさえ思えてしまう。
「来週なんだよ」
来週って。
あまりにも急すぎて、声を失う。
卒業式の今日まで会えない日は何日か続いて、疑問に思っていたけど。
それって、今思えばすごく単純な理由で。
つまり、東京に行って、住むところを決めていたということだったのか。
そんなこともつゆ知らずに、高校生最後の春休みにどこ行こうかと能天気に計画を立てていたなんて。
あまりにも滑稽すぎる。
笑いたいのに、今にもこぼれそうになっている涙が邪魔して。
笑うことすら、うまくできない。
「よかったら」
最初から渡すつもりで持っていたのか、振り返った宏之がメモを無理やり握らせる。
ルーズリーフをちぎったような小さな切れ端には、時刻が書かれてある。
それが何を意味するのか、宏之の台詞でわかっていた。
乗る予定にしている、新幹線の時間だ。
見送りに来てほしいなら、はっきりそう言えばいい。
そう言ってよ。
言ってくれたら、行ってあげるから。
なのに、宏之は曖昧な笑みを見せるだけで。
私に向けられたその手が、頬を流れ落ちる涙を、拭ってくれることはなかった。