ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
はっと目を開けた。
遮光カーテンのわずかに開いた隙間から、白い陽光がまぶしく射しこみ、室内を明るく照らす。
すぐには覚めきらないまぶたを、ごしごしとこする。
夢だった。
頬をこぼれ落ちた涙の筋も。
メモを受けとった時に触れた宏之の手の温度も。
ブレザーをにらんでいた私の視線も。
夢にしては、すべてがリアルだった。
違う、そうじゃない。
かぶりを振る。
夢じゃない。
夢の出来事なんかじゃ、ない。
妙にリアルだったのは、実際のことだから。
今でも忘れてなんかいない。
忘れられるはずもない。
まだ記憶している。
あれは、高校の卒業式のあとの、宏之とのやりとりだ。
あれは、リアルだ。
夢の中で、再現していただけなんだ。
あの時、見送りに行くよ、と。
素直に言えたら、私と宏之の未来は、何かが変わっただろうか。
あの日が最後の日になることを知っていたら、私は宏之に優しくできただろうか。
何か、別の言葉をかけてあげられただろうか。
その時。
けたたましい電子音が、部屋いっぱいに響いた。
ベッドサイドに置いている携帯のアラーム音だとすぐに気づく。
寝坊してはいけないと危惧して、寝る前にアラームをわざわざセットしたのに。
鳴るよりも早く、目が覚めてしまったらしい。
私はきっと。
きっと、自分で思う以上に、ひどく緊張しているのかもしれない。
なんのためにセットしたのか。
これじゃ、セットする意味なんて、なかった。
苦笑ぎみに腕を伸ばして、甲高いだけの音を止める。
ついでに、液晶画面を見やる。
携帯の日づけは、12月27日を表示していた。