ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
今さら気負う気持ちはない。
たぶん、左手の薬指のおかげもあるんだろう。
これがなければ、再会に何かを賭けたかもしれない。
たとえば、失った恋の再開のような、よこしまな気持ちを。
ぎゅっと左手で握りこぶしをつくった時、エレベーターが到着した。
乗っていた人たちが完全に降りたのを見届けてから、乗りこむ。
エレベーター内は、私ひとりだけだった。
上昇するごとに、ドキドキと胸が高鳴っていく。
会える。
もうすぐ、宏之に会える。
けれど、どんな顔をして会えばいいんだろう。
うまく笑えるだろうか。
最後の時は笑えなかっただけに、再会の時は笑顔がいい。
間もなくして目的の階に到着したので降りると、周りは喧騒に満ちている。
同窓会の参加者だろう、腰元や胸元に名札をつけた人たちを確認できる。
その数、30名ほど。
壁際に集まって談笑していたり、置かれているソファに腰かけていたり、思い思いに過ごしている。
たぶん、壁際で話しているグループに混ざっている髪の短い女性は元クラスメイトと似ているけど、特に親しくしていたわけじゃない。
向こうは私のことは覚えていないだろう。
そう思うと、気軽に声をかけるのはためらわれる。
ソファに腰かけている人たちは、たぶん、宏之みたいに3年間同じクラスになったことのない人たちだろう。
今回の同窓会はクラス会ではなく、学年全体のものなのだ。
見渡してみるも、宏之の顔は探しだせない。
開始時刻まで時間に余裕があるし、まだ来ていないんだろう。
それなのに、どこかで残念がっている自分がいることを隠せない。
再会が10年ぶりだとしても。
たとえどんな姿に変貌を遂げていても。
すぐに見つけられる自信なら、あるのに。
短く吐息をつく。
先に受付を済ませてしまおうと考え、開場の出入り口付近に設けられた受付へと向かう。
クラスごとに男女のペアがそれぞれ1名ずつ配置され、全10名ほどだろうか。
その人たちが幹事だろう。
それだけで圧倒されそうだ。